ドイツ近代科学を支えた官僚―影の文部大臣アルトホーフ (中公新書)
潮木 守一中央公論社
中央公論社
国家と大学との関係如何は、現代日本においてもなお熱い議論を呼ぶお題であるが、本書が取り上げているのは、今から100年ほど前のドイツにおける国家と大学との関係である。文部官僚として絶大な権力を振るったアルトホーフという人物に焦点を当てつつ、その周辺で展開された人間模様、そして科学研究とポストや予算の配分をめぐる緊張関係が叙述されていく。そこで描かれている悲喜劇は、そのまま現代日本―特に理系の研究環境―に置き換えてみることがかなりの程度まで可能なものであり、評者としては笑えたり笑えなかったりするものである。
(最先端を走る理系の研究者にとって、大学の講義がどのようなもの(に過ぎない)か、資金獲得に汲々とする彼らにとって大掛かりな実験設備のいらない文系の研究者がどのように映るか、読み進めながら思い当たる節が実際いろいろあったりする。)
ちなみに、ドイツのあり方とある種の対極をなすアメリカの状況への言及が少ししかないのはやや物足りないが、それはないものねだりというものであろう。とりあえず近代国民国家の枠組みの中で生きる他ない私たちは、大学や学問研究といったものにどう向き合えばいいのか。見た目に反して古びることのないテーマを扱った好著である。
(最先端を走る理系の研究者にとって、大学の講義がどのようなもの(に過ぎない)か、資金獲得に汲々とする彼らにとって大掛かりな実験設備のいらない文系の研究者がどのように映るか、読み進めながら思い当たる節が実際いろいろあったりする。)
ちなみに、ドイツのあり方とある種の対極をなすアメリカの状況への言及が少ししかないのはやや物足りないが、それはないものねだりというものであろう。とりあえず近代国民国家の枠組みの中で生きる他ない私たちは、大学や学問研究といったものにどう向き合えばいいのか。見た目に反して古びることのないテーマを扱った好著である。
ダーウィン自伝 (ちくま学芸文庫)
チャールズ ダーウィン筑摩書房
筑摩書房
ダーウィンの死後発表された彼の自伝は、妻エンマ・ダーウィンの強い意向もあって、彼の宗教観と人物評の部分が削除されたという。この無削除版の編集に携わったダーウィンの孫娘ノラ・バーロウは、本書巻末に削除個所の一覧を示してくれているので、それらをひとつひとつチェックしてゆくだけでも面白い。彼の妻が躊躇したのもなるほどとうなずける点が多く、それだけ興味深い部分になっているのだ。温厚、誠実な人として知られたダーウィンだが、スペンサー、カーライルらなどについてのコメントは実に辛らつで、これらが読めるだけでも編者には感謝しなければならない。もちろん、ストレートな自伝としても本書は面白い。医師の息子として生まれたダーウィンは、兄弟らとともに当初医学部に進むが、結局!ものにはならず、このままでは単なる狩猟好きのごくつぶしになると危ぶんだ父親の意向によって、聖職者(!)になるべく専攻を変えるが、いざ大学を卒業するというときに偶然ビーグル号に乗船する機会を得る。その一種なりゆきまかせの彼が、後にキリスト教的世界観を揺るがす進化論を確立するのだから、なんという皮肉だろう! 本書後半の付録には、自伝の内容に関連のある書簡やメモが収められており、それぞれ興味深いが、サミュエル・バトラーとの行き違いにかかわる部分などは、やや些末にすぎるので、面倒なら飛ばしてもかまわないと思う。翻訳はあとひと息頑張ってほしいので、あえて★ひとつマイナス! なお、本書の解説を担当している新妻昭夫氏は、『ダーウィンのミミズの研究』と題するユニークな科学絵本も執筆している。いちおう小学生向けだが、ダーウィンに興味を持つ人にはぜひおすすめしたい。
東部戦線の独空軍 (新戦史シリーズ)
リチャード ムラー朝日ソノラマ
朝日ソノラマ
ドイツ空軍は戦術空軍で、陸軍のサポート空軍と
いう見方が定説だが、
本書は独立した思考をもとに作戦を計画、実施し
戦略空軍としての道へも模索していた事実として
ロシアのウラル工業地帯への爆撃作戦が記述
されています。
また、地上支援専用部隊である第8航空団の
前線地上部隊の連絡方法などの記述もあり
けっこう楽しく読める1冊になっています。
いう見方が定説だが、
本書は独立した思考をもとに作戦を計画、実施し
戦略空軍としての道へも模索していた事実として
ロシアのウラル工業地帯への爆撃作戦が記述
されています。
また、地上支援専用部隊である第8航空団の
前線地上部隊の連絡方法などの記述もあり
けっこう楽しく読める1冊になっています。
水晶宮物語―ロンドン万国博覧会1851 (ちくま学芸文庫)
松村 昌家筑摩書房
筑摩書房
水晶宮のことを私が初めて知ったのは、高坂正堯氏「現代史の中で考える 第1部:大英帝国の場合」であった。高坂氏の著述は英国の衰退について述べたものであるが、氏は、「史上初の万国博が意味したもの」として、大英帝国の繁栄の絶頂の象徴である、第1回万国博覧会と水晶宮を著述の冒頭に置いたのである。
次に、森薫氏のヴィクトリア朝ラブロマンス、「エマ」で、再び水晶宮に出会った。過去のささやかな幸せ、未来に待ち受ける悲しみと苦しみの狭間で、今現在、一日だけ夢と希望と、愛を確かめた恋人達の舞台として、水晶宮はまさにふさわしい。
この著作の主人公は水晶宮という建築物であるが、その生と死には、繁栄と衰退、喜びと悲しみ、建設と崩壊、希望・努力と絶望・空しさ、全てがある。彼の86年の生涯に、一読者として脱帽し、涙を手向けたい。
次に、森薫氏のヴィクトリア朝ラブロマンス、「エマ」で、再び水晶宮に出会った。過去のささやかな幸せ、未来に待ち受ける悲しみと苦しみの狭間で、今現在、一日だけ夢と希望と、愛を確かめた恋人達の舞台として、水晶宮はまさにふさわしい。
この著作の主人公は水晶宮という建築物であるが、その生と死には、繁栄と衰退、喜びと悲しみ、建設と崩壊、希望・努力と絶望・空しさ、全てがある。彼の86年の生涯に、一読者として脱帽し、涙を手向けたい。
海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈下〉 (中公文庫)
塩野 七生中央公論社
中央公論社
ヴェネツィア千年史を描いた下巻。
オスマントルコの勃興により、ヴェネツィアの隆盛にかげりが出始める。「文明、国家の衰退とは」を描いた秀作である。著者の視点からヴェネツィア衰退を丁寧にたどる。下巻は特に頂点を極めた国家がじわじわと衰退し、崩壊するまでのストーリーであり、物悲しさが漂う。ただ、読後の感覚は脱力感ではなくて、改めて勇気を持とうという気持ちになれる。
組織が国家が衰退するにはさまざまな理由があるのであろうが、時代の変化(技術革新を含む)に対応できなくなると、興隆の原因が衰退の原因となる。繁栄の期間が長く、成功が大きければ大きいほど、成功体験を早期に修正して変化することは難しくなる。まさに企業や個人にも当てはまる。謙虚に失敗に学び、成功体験にしがみつかず、時代の潮流を読み臨機応変に変えていくことが出来るのか?そして、避けられない衰退ならことさら優雅に、高い精神性を持ち美しく滅ぶ。かっこいいんだけど、難しい。あきらめない不屈の精神力と、やれることはやりつくした後の潔さ。矛盾する二面性をもてるのか。
塩野氏の男性への叱咤、施政者への評価、とても手厳しいが愛情にあふれている。組織にかかわるものとして、塩野氏への回答を自分なりに自分の組織に返していけるような仕事をしなければ、という気持ちにさせてくれる作品である。
オスマントルコの勃興により、ヴェネツィアの隆盛にかげりが出始める。「文明、国家の衰退とは」を描いた秀作である。著者の視点からヴェネツィア衰退を丁寧にたどる。下巻は特に頂点を極めた国家がじわじわと衰退し、崩壊するまでのストーリーであり、物悲しさが漂う。ただ、読後の感覚は脱力感ではなくて、改めて勇気を持とうという気持ちになれる。
組織が国家が衰退するにはさまざまな理由があるのであろうが、時代の変化(技術革新を含む)に対応できなくなると、興隆の原因が衰退の原因となる。繁栄の期間が長く、成功が大きければ大きいほど、成功体験を早期に修正して変化することは難しくなる。まさに企業や個人にも当てはまる。謙虚に失敗に学び、成功体験にしがみつかず、時代の潮流を読み臨機応変に変えていくことが出来るのか?そして、避けられない衰退ならことさら優雅に、高い精神性を持ち美しく滅ぶ。かっこいいんだけど、難しい。あきらめない不屈の精神力と、やれることはやりつくした後の潔さ。矛盾する二面性をもてるのか。
塩野氏の男性への叱咤、施政者への評価、とても手厳しいが愛情にあふれている。組織にかかわるものとして、塩野氏への回答を自分なりに自分の組織に返していけるような仕事をしなければ、という気持ちにさせてくれる作品である。